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 エルシーはそっと彼を見上げる。  青空に彼の黒髪が映え、紫の瞳がきらめいた。  彼はふと振り返り、目を笑みに細めた。  アルフレッドは懐からなにかを取り出し、エルシーに見せた。 「これをあなたに」 「きれい……」  藤の花を象ったかんざしだった。土台は銀で、花の房は紫水晶で作られていた。 「私がつけて差し上げてもよろしいですか?」 「お願いします」  ローレンスはすっと手を伸ばし、結い上げた髪にかんざしを刺す。  彼の手が髪に触れる。それだけで鼓動が早くなった。 「やはりよくお似合いだ」  満足げに彼は言った。 「綺羅(きら)をまとうあなたも美しい。深緑の瞳によく映える」 「ありがとうございます」  お辞儀をすると、房飾りが揺れて涼やかな音を立てた。 「来月には藤が咲きます。庭園の広大な藤棚にいろんな種類の藤が咲き誇り、それはそれは見事です。ぜひ見に来ていただきたい」  エルシーは無言でうつむいた。  藤棚はとても美しいだろう。薄紫の房が一面に垂れ、風に揺れ、爽やかさと甘さを含んだ芳香が漂う。その中を彼に手を引かれて歩くのかと思うと、それだけで照れてしまう。 「どうされました?」  気付いたアルフレッドが、エルシーに話しかける。
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