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「嫌っているわけではないそうです。それがまた彼を苦しめ、悩ませました」 「……周囲にわかってもらえなさそうな悩みね。きっとそれも苦しいわね」 「そんな彼の内面をみることなく嫌がるなんて、私は許せなかったんですよ」 「お母さんはどうしてそんなことをするんだろう」 「私にはわかりません。理解する気にもなれません。だが、そういう人がいる、というのは事実です。滞在中にお会いしたが、まったく普通の母親に見えましたよ。虐待している自覚はまったくないでしょう。むしろ慈愛にあふれる自分に酔っていてもおかしくない」  履き捨てるようにアルフレッドが言う。  エルシーはなにも言えなかった。 「縁談を進めたのは、彼がウィステリアに移住しようとしているのを阻止したかったようです」 「それって逆に怖い」  縁談をと言いながら、あえて醜い絵姿を作って贈る。どういう心理なのだろう。ローレンスの悩みはどれだけ深かっただろう。 「ともあれ、お見合いも破談になったことですし、彼は安心して我が国に来てくれます。あちらに彼の良い人もいますからね」 「良かった!」  エルシーはほっと胸をなでおろした。ならば、これから彼は幸せな明るい人生を歩いて行くのだろう。 「あなたは?」  アルフレッドは紫の瞳でエルシーを見つめる。 「我が国においでになるとき、あなたはどのようなお気持ちでいらっしゃる?」  答えられず、エルシーは目をそらした。
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