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「討ち入りだ!」
皆が寝静まった夜。その声は城中に響いた。雪が目を覚まして外を見ると城は火に包まれていて、あちらこちらで刀の鍔迫り合いの音がする。
「父上! 母上!」
雪はすぐに両親のもとへ行こうとするが、いきなりその両腕を捕まれ足が地を離れる。
「おやおや。佐竹広臣の娘か?」
「無礼者!」
叫んでその男が手に持っているものに雪は青ざめる。
「お前の好きな父上はここにいるぜ」
男の手には父の首がある。髪を掴み、男はゆらゆらと首を揺らして見せた。
「俺の仕事は終わったが少々楽しませてもらおうか。幼いができなくもない」
男は雪をぶら下げたまま雪の部屋に入り布団の上で雪に覆いかぶさる。
その横に父の首をとんと置いて雪の肌に舌を這わせる。
「ふふ……。悔しかったら俺を殺しに来い。同じことをしてやるからな」
身体の中に異物が入り込む感覚。雪は泣き叫んだが誰も助けには来ない。
男は精を何度も雪の中に放ったあと、父の首をまた手に取りお手玉のように放りながら城を去っていく。
「殺してやる……」
雪は痛む身体を推して、部屋の物置から小判を三枚掴み、城から逃げ出した。
佐竹広臣の娘だとしても十歳の娘が逃げるのを誰も止めはしなかった。今、この城で雪の身の上を案じる余裕があるものはいないのだ。
頼れるべき重臣も外交で出払っている。雪は自力で生き残るしか術がなかった。
佐竹広臣の城が襲撃されて三日。雪は街をふらふらとふらついていた。もう三日食べていない。川で水を飲んだのも半日前。何より家族を失った悲しみが雪を覆う。
一つだけ望みがあるとすれば、炊き出しを母と共にしていたとき聞いた噂。この街に人斬りとして名を馳せた立花雄造という男がいるということ。雪に父の仇を討ち果たせる力などない。雪は懐の中の小判三枚に手を当てる。
「立花雄造ーー! どこだーー!」
叫んだ雪の意識は途切れる。懐かしい父の声が聞こえる。
「この地はもっと豊かになる。米が沢山取れるようになれば、米の値は下がり多くの人が飢えずに済む。時間がかかるかも知れないが、灌漑事業は必要なことなのだよ。雪は女だが、女だからといって政を知らなくていい訳ではないからな。領民には優しくあれよ。それ以前に優しくありなさい」
父上……。優しくて真っ直ぐな父はいない。優しくて穏やかな母もいない。生きていて何があるのだろうか。父は首となり私は汚された。あんなくだらない男に。
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