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雪の目がうっすらと開く。暗闇の中、蝋燭の光だけが揺れている。布団の上にいる。その横にいたものは雪はすぐに気づく。飛び起きて雪は自らの身体を擦る。
「私に何かしたか!?」
「なんも」
「お前は……」
隣には徳利と盃を手に雪を見やる男。炊き出しの場所にいた侍だった。
「お前が往来で俺の名を叫んで倒れたって聞いてな。だからここにいる」
「……立花雄造……なのか?」
噂によると近国の悪政の大名を身一つで乗り込んで討ち取ったという話なのに、目の前にいるのは優男。長刀を携えてはいるが豪傑には見えない。だが、ここで引く訳にはいかないと懐に手を伸ばす。
「ない! ない!」
立花雄造に仇討ちを頼むための小判三枚。雪の額に汗が滲む。
「探しているのはこれか?」
雄造が小判三枚を雪に見せる。
「何故それを!?」
「知れたこと。お前の依頼は受けたということだ。佐竹広臣の娘雪。仇討ちだろう?」
「どうして知っている?」
「お前の父から頼まれ事をしていてな、お前の仇と俺の敵は同じだということだ」
「……お前は仇を知っているのか?」
「発端は津上屋。その次男が広臣様に某叩きの刑を恨んでのこと。また、津上屋はこの地の収穫が上がり、農民が豊かになれば人身売買が容易く出来なくなるために広臣様を恨んでいた。お前の父を殺したのは雇われた浪人衆。俺も広臣様には世話になった。俺にも奴らを討つ大義名分がある」
「父を知っているのだな……」
「あれほどの名君にこの先出会えるかも分からん。さて行くか」
「どこに?」
「隣だ。津上屋の次男の店にな」
「なんと大胆な……」
「俺は独り身だ。失うものなどありはしない。俺の側を離れるなよ雪」
雄造は長刀を手にゆらりと外に出る。雪も雄造を追いかけていく。
満月の夜。薄光に照らされた雄造はふらふらと店に入っていく。直ぐ様、悲鳴が響いた。
雪も雄造のあとを追い店に入ると雄造の足元には斬られたであろう浪人が倒れていた。それでも雄造を幾人もの浪人が囲む。
城が焼けた日に見た顔がいくつもある。雪は唇を噛みながら雄造の背に立つ。
「仇討ちと洒落込もうか」
「ああ」
雪の言葉を聞いて雄造の長刀が一閃する。
刀を動かす間もなく。一人斬り伏せる。浪人衆は次々と雄造を刀を向けるが、上段で攻めれば雄造は喉を一瞬で突き、下段から斬り上げれはそれより速く胸を突き、中段で攻めようものならば長刀で薙ぎ払い袈裟斬りに斬り伏せる。
「強い……」
雪の目の前にいるのは間違いなく豪傑であり剣豪。血飛沫が飛び交う中、雪は雄造の刀技に見入っていた。
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