9人が本棚に入れています
本棚に追加
「雑魚じゃ俺に敵わねぇよ」
その場にいた浪人衆全てを斬り伏せて雄造はふらふらと奥に入っていく。雄造は浪人衆以外には刀を振るわない。逃げ惑う女衆には目もくれず奥に向かう。
店の奥にぬらりと立つ男がいた。
「おや本当に仇討ちに来たのかい?」
「雄造! そいつだ!」
父を殺した男。雪を辱めた男。
雄造は長刀を男に向ける。
「あんた、できるな」
「ふふ。これが終わったらまた抱いてやるよ。二度と刃向かえないようにな」
それは雪に向けて放たれた言葉。雪の背筋が寒くなる。
雄造は雪を庇うように前に立つ。
「何、俺の女を抱くとか言ってんのさ?」
雄造が踏み込む。剣戟の音が鳴り響く。
「おや、そんな幼子を囲う気なのか? 物好きだな」
「ああ。あんたなんかに奪われたのがどうにも悔しくてよ」
会話しながらも続く剣戟。雪は唇を噛みながらもしっかりと見つめている。もし雄造が負けたならば全て終わりでいい。死んでいい。そんな覚悟のもとに雪は雄造を見つめる。
「終わりにしようぜ」
雄造は言うと長刀を下手に持ち帰る。雪は見たことのない構えに驚くが口にしない。
「望むところ!」
父の仇は上段の構えを見せる。先に踏み込んだのは雄造だ。それを受け止めるように仇の刀が振り下ろされる。雄造はすんでのところで避けたが衣服が斬れる。そのまま雄造の長刀が仇の身体を横薙ぎに一閃した。
「見事……」
仇は倒れて息絶える。
雄造はキンッと音を鳴らして長刀を鞘に納める。
「終わったぞ。津上屋は逃がしたみたいだが」
「父上……母上……」
雪はその場に座り込み顔を覆う。涙が次から次へと溢れてくる。もう会うこともできない両親を思い出して。
雄造はその雪の前に胡座をかいて座る。
「それとな、こんなとこで言うことじゃないだろうが、俺と雪は来月から許婚になる予定だったんだよ」
雄造はすうっと息を吸って続けた。
「血塗れで言う話じゃないだろうが、俺の嫁になってくんねぇか?」
雪は袖で涙を拭い真っ直ぐに雄造を見る。
「構わない。でも私を守れ。死ぬまで守れ。許婚として私を守れなかったことを悔やんで守れ。それができるならいい」
「ああ。約束する」
雄造は雪を抱きしめる。
「これからよろしくな」
先のことは分からない。それに父と母を殺した主犯の津上屋はまだ健在。雄造と雪の仇討ちはまだ始まったばかりだ。
最初のコメントを投稿しよう!