仇討ち娘と人斬り浪人 閃

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「雄造、怒っているのか?」 「ああ。怒っているよ。雪は俺に守れって言ったんだ。死ぬまで守れと。死んでも守れと。雪から死地に飛び込まれては本懐も遂げられない」 「すまない……」  村から離れた大樹のふもと。雄造は雪を下ろす。 「俺はさ、雪が領民たちに炊き出しをする姿に、別け隔てない姿に惚れたんだ。勝手に死んでいくな」 「あれは……母上の手伝いをしていただけで……」 「武家の女房と娘が農民の炊き出しなんて普通しねぇよ。雪はもう俺の嫁なんだ。この地の炊き出しで笑う雪を守りたいんだ。俺より先に死ぬな。絶対に」  雄造は雪を強く抱き締める。 「雄造……分かったよ……」  雪も雄造の背に小さな手を伸ばす。津上屋討伐という悲願を身に二人は長々と抱きしめ合っていた。
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