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隆太の別れた理由が彼から出た言葉とは違うことに気づいたのは、別れて5日後のことだった。
隆太のインスタに投稿されたカレーの写真には、隆太の向かい側に座る女性らしき人物の姿が映り込んでいた。顔は写っていないけど、可愛らしい女物のカーディガンや服装や胸の膨らみから女性であることには間違いなかった。
嘘をつかれていたのだ。
隆太は、朱莉を楽しませられないから別れたのではない。好きな女ができたから別れたのだ。
朱莉はこんなに彼を愛してるのに。
別れて半年が経った頃、LINEをブロックしないでいてくれた隆太にわざと電話をかけたことがあった。
電話に出た隆太に朱莉は「死にたい」とだけ告げた。
自分のせいで元カノが死んだとでもなれば隆太も復縁を考え直してくれるはず。この時はそう思っていた。
だけど、実際は違った。
「勝手に死ねば?全然悲しくないけど、葬式くらいには行ってあげるよ」
「は?」
頭にきて短い返事を返した朱莉に隆太は続けた。
「お前が俺のことをずっとネトストしてるのは知ってんだぞ。そうされる度にどんどん嫌いになる」
「嫌いになるって…なんでよ」
「そういうことしてくるからだよ。恋人関係っていうのは、お互いの気持ちが成立し合っているからできるものなんだ。俺はもうあの頃には戻れない」
その言葉を聞いた瞬間、何かが切れる音がした。
「あっそ。じゃあ、一緒に死のう?」
「どういうことだよ!?」
朱莉は何も言わずに通話を繋げたままデニムパンツのポケットに突っ込んでいたICカードを取り出し改札にタッチした。
今隆太がK駅の3番乗り場にいることは知っている。だって、インスタに載せてたじゃん。私がストーリー見れないように設定するからわざわざ匿名で別アカウントを作ったのに。
こんなに愛してるのに愛してくれない隆太が全部悪い。あいつが全部悪い。
だから一緒に死んでもらう。この恋をハッピーエンドで終わらせるために死んでもらう。そうすれば、彼がどう言おうとずっと一緒にいられるから。
朱莉はエスカレーターを駆け降りると、接近メロディが鳴り響くホームの列の先頭に立っていたグレーのシャツを羽織った隆太の背中に後ろから抱きついた。
付き合ってる時は、お互い緊張して一定の距離を保っていたからこれが初めてのスキンシップだ。
「え?あっ、あか…」
「りゅーたくん」
ねぇ、このまま…
私と一緒に死のう?
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