麻酔

　しばらく経ってようやく私は家に着いた。もうヘトヘトだ。足の裏もなんだかジンジンする。擦りむいたかな、早く洗わなくちゃ。ドアノブに手をかけようとした時、ドアノブに一匹のカタツムリがひっついているのが見えた。

「うげえ！　きもい！」

　私は素早くそれを手で払った。手からは変な匂いがした。

　ベッドに横たわって、窓から外を見る。うっすらと星が輝いているのが見える。なんて綺麗。素敵だな。でもやっぱりまだ寝付けなくて、机に置いてあった英和辞典をなんとなく開いてみる。
　Anesthesia？　へえー麻酔っていう意味なんだ。ギリシャ語から来てるんだ、なるほどねー。そういえば手術の時に全身麻酔されたら一瞬で時間が飛んだような感覚になるってテレビで言ってたな。痛みも感じないし、時間もすぐ過ぎるし、すごいなあ麻酔って。私も嫌なことはそうやって感じずに生きていければな。

　湿った風が窓から部屋に入ってきた。心地いい風だ。雨は上がったのかな？　外に出てみよう、星も見えるかも。

　ああ、気持ちいい。雨上がりの空気って最高。
　夏の匂いがする。