長いお話の「終わり」

1/1

1人が本棚に入れています
本棚に追加
/17ページ

長いお話の「終わり」

 リーナは、火山のそばで「地震」に気づく。ネーヴェが即座にリーナを背中に乗せてくれた。 「ジンは?」  火山が噴火する前兆の地震なのだとわかる。火口付近から黄金色の炎が溢れ出すのも見えた。  逃げないと間に合わない。  ネーヴェが走り出す。リーナを乗せて。 「ジン……」  煙のせいか悲しみのせいか、涙がポロポロあふれてくる。  そんなリーナの隣に、ひとつの影がある。  あれは、ユニコーン?  ジンを乗せた聖なる獣は、ネーヴェと互いに合図をし合って、恐ろしい噴火から急いで離れた。  噴火は幸い、そんなに遠くまでは流れず、二つの獣の脚もだんだんとゆっくりになった。 ⭐︎ ⭐︎ ⭐︎  村近くの森の中まで来た。ジンはユニコーンから降りる。ユニコーンと互いにお辞儀をしあう。ユニコーンは空気の中に溶けて消えた。 「あのユニコーンはアリアドネの化身なんだ」  ジンは優しい目をして、ユニコーンが消えたあたりを見ている。  リーナは言う。 「村に一緒に帰ろうよ。父さんだってみんなだって、話し合えばわかる。そうだ。村長とか、話がわかりそうだよ。意外と」 「リーナは優しいんだな」  ジンがリーナの頬にそっと手をあてた。リーナは顔がパッと赤くなる。 「なによ。ジンなんてすごい年齢いったおじさんのわけだし、好きなんかじゃない!」  気持ちとは反対のことを言ってうつむいてしまったリーナの細い身体を、ジンはそっと腕の中におさめた。 「リーナが僕のこと嫌いでも、僕はリーナのために、およそ百年分だけ、寿命を残したんだよ」  片目をつぶってジンは言う。  村まではあと三十分ほどで着く。ネーヴェにも普段の「聖霊の巣」に戻ってもらい、二人で歩きながら、いろんな話をする。  ジンの生まれ育ったエルフの郷の話を聞く。  金のリンゴがなり、バラの花が年中さいていたというその郷。  村が見えてきた。村長の姿や、病に臥せっていたはずのリーナの祖母の姿まで見える。祖母のルカは父さんに身体を支えられていた。 「お帰りなさい。あなたは恐ろしい噴火から、わたしたちをお守りくださった。どうぞ、これからも村に」  村長がジンにお辞儀をして言う。 「しがない野菜売りとして、あと百年くらいはお世話になりますよ」  ジンは幸せそうに笑うと、言う。  ルカとも親しそうに話している。村の入り口なのに、いつのまにかジンの周りに人が集まってる。 「父さん、ただいま」  ジンの様子を腕組みして見ていた父さんに、リーナは声をかけた。 「野菜売りのエルフなんかに、大事な娘をやれるか。ああ。うまい酒でも飲みてえな」    父さんは少し悔しそうに言いながらも、ジンを温かい目で見てた。 ⭐︎ ⭐︎ ⭐︎  およそ十年が経った。 「このお話はほんとの話なの?」  長い話をずっと聞いていた四歳の幼い娘に、お母さんが言う。 「ええ。ほんとの話よ」 「このお話の二人が、お父さんとお母さんの名前なのはどうして?」  目を輝かせて、幼な子はなかなか眠らない。 「ほら、お母さん。寝物語に聞かせる話じゃなかったろ。な。そうだ。いい子にして早く寝たら、明日、『魔法の練習』をしよう。もしかしたら、お話の中のユーガくんのように、お前も魔法が使えるかもしれないぞ」  お父さんの温かい手を感じながら、幼な子は幸せそうな顔で眠りにつく。  お父さんとお母さんは、「昔の話だよね」と微笑みあった。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加