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長いお話の「終わり」
リーナは、火山のそばで「地震」に気づく。ネーヴェが即座にリーナを背中に乗せてくれた。
「ジンは?」
火山が噴火する前兆の地震なのだとわかる。火口付近から黄金色の炎が溢れ出すのも見えた。
逃げないと間に合わない。
ネーヴェが走り出す。リーナを乗せて。
「ジン……」
煙のせいか悲しみのせいか、涙がポロポロあふれてくる。
そんなリーナの隣に、ひとつの影がある。
あれは、ユニコーン?
ジンを乗せた聖なる獣は、ネーヴェと互いに合図をし合って、恐ろしい噴火から急いで離れた。
噴火は幸い、そんなに遠くまでは流れず、二つの獣の脚もだんだんとゆっくりになった。
⭐︎ ⭐︎ ⭐︎
村近くの森の中まで来た。ジンはユニコーンから降りる。ユニコーンと互いにお辞儀をしあう。ユニコーンは空気の中に溶けて消えた。
「あのユニコーンはアリアドネの化身なんだ」
ジンは優しい目をして、ユニコーンが消えたあたりを見ている。
リーナは言う。
「村に一緒に帰ろうよ。父さんだってみんなだって、話し合えばわかる。そうだ。村長とか、話がわかりそうだよ。意外と」
「リーナは優しいんだな」
ジンがリーナの頬にそっと手をあてた。リーナは顔がパッと赤くなる。
「なによ。ジンなんてすごい年齢いったおじさんのわけだし、好きなんかじゃない!」
気持ちとは反対のことを言ってうつむいてしまったリーナの細い身体を、ジンはそっと腕の中におさめた。
「リーナが僕のこと嫌いでも、僕はリーナのために、およそ百年分だけ、寿命を残したんだよ」
片目をつぶってジンは言う。
村まではあと三十分ほどで着く。ネーヴェにも普段の「聖霊の巣」に戻ってもらい、二人で歩きながら、いろんな話をする。
ジンの生まれ育ったエルフの郷の話を聞く。
金のリンゴがなり、バラの花が年中さいていたというその郷。
村が見えてきた。村長の姿や、病に臥せっていたはずのリーナの祖母の姿まで見える。祖母のルカは父さんに身体を支えられていた。
「お帰りなさい。あなたは恐ろしい噴火から、わたしたちをお守りくださった。どうぞ、これからも村に」
村長がジンにお辞儀をして言う。
「しがない野菜売りとして、あと百年くらいはお世話になりますよ」
ジンは幸せそうに笑うと、言う。
ルカとも親しそうに話している。村の入り口なのに、いつのまにかジンの周りに人が集まってる。
「父さん、ただいま」
ジンの様子を腕組みして見ていた父さんに、リーナは声をかけた。
「野菜売りのエルフなんかに、大事な娘をやれるか。ああ。うまい酒でも飲みてえな」
父さんは少し悔しそうに言いながらも、ジンを温かい目で見てた。
⭐︎ ⭐︎ ⭐︎
およそ十年が経った。
「このお話はほんとの話なの?」
長い話をずっと聞いていた四歳の幼い娘に、お母さんが言う。
「ええ。ほんとの話よ」
「このお話の二人が、お父さんとお母さんの名前なのはどうして?」
目を輝かせて、幼な子はなかなか眠らない。
「ほら、お母さん。寝物語に聞かせる話じゃなかったろ。な。そうだ。いい子にして早く寝たら、明日、『魔法の練習』をしよう。もしかしたら、お話の中のユーガくんのように、お前も魔法が使えるかもしれないぞ」
お父さんの温かい手を感じながら、幼な子は幸せそうな顔で眠りにつく。
お父さんとお母さんは、「昔の話だよね」と微笑みあった。
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