前日譚・叡智の図書館③

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前日譚・叡智の図書館③

 ラキアスを憎んで良いはずだった。  なのに、あの女神を目にすると、なんだか力が抜けてしまうのだ。噴火が終わった後の「火山の女神」は、ただただ優しかった。  その正体は三つの目を持つ黄金龍のはずなのに、ごく普通の女の人に見えた。  ここではジンはひとりきり。ラキアスだけが話し相手だ。  ジンは十二歳になっていた。もう二年が経過していた。 「いけないよね。このままじゃあ」  水の精霊召喚の魔方陣を「光」で描く。もう、光で魔方陣が生み出せるようになっていた。  けれども、辺りはうんともすんとも言わない。 「光でだめ。となると、やはり、血か」  ジンは鋭い氷のナイフを左手に産み出すと、右手にぐさりと刃を立てた。  ポタポタと流れる血で、もう一度、同じ魔方陣を描く。  水の上位精霊、アリアドネを召喚するのだ。  うっすらと、ジンの前に人影が浮かぶ。 「今はまだ、だめです。時が満ちていないから」  精霊アリアドネの声を、ジンは確かに聞いた。  彼女のかぶる王冠はとても小さなものだった。あらゆる水を統べる女王。  血液が床に流れていく。ジンは意識を失った。
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