前日譚・叡智の図書館④

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前日譚・叡智の図書館④

⭐︎ ⭐︎ ⭐︎ 「ジン。そうか。精霊を召喚しようとしたのか」  ラキアスは、血を流して倒れているジンに駆け寄ると眉をしかめた。  この子の体が冷たくなりかけていた。  この子は自分の「暇つぶし」のために連れてきた。将来的には自分を憎み、その「凍れる力」で自分を倒そうとする存在のはずだ。もちろん、自分は負けたりはしない。ただ、暇つぶしの材料になると思って、この「叡智の図書館」に連れてきて育成していた。  こんな子が愛おしくてたまらないとは、火山の女神の名前が泣くではないか。 「土の上位精霊、ドリアーデよ! 出でよ」  ラキアスは高らかにうたう。現れた土の精霊は、 「あらまあ。ひどい怪我をしたエルフですこと」とあたふたして、ジンの「治療」を始めた。 ⭐︎ ⭐︎ ⭐︎  翌週、ジンはラキアスに連れられて、二年ぶりに「外」に出た。 「どこに行くの? ラキアス」  ジンはラキアスに尋ねる。 「人間の村じゃ。エルフの村に比べたらつまらないかもな。お前には」  ラキアスは、閉じられた三つ目を今は獣皮のフードで隠していた。  人間の村に入ると、牛や豚、ニワトリがあちこちで飼育されている。枯れかけた小麦の匂いもたちこめていた。 「こんなところいやだよ。ねえ、ラキ」  その名を言ってはならないと気づき、ジンは慌てて口を押さえた。村長らしき人がやってきて、ラキアスと何か話をしている。 「旅芸人のラキーナさん。それでは、この子が『あの噴火』から生き残ったエルフ族なのですか。水の力も、その、使えますでしょうか」  村長という人はどこか臆病そうなおじいさんだ。  ジンは見下すように言う。 「使えるよ。だって僕は氷属性。この村、水不足だよね。それくらいわかるさ。僕にだって」 「助かります。井戸の水がかれてしまいまして」  村長が手をすりすりさせて願うのが腹が立つ。  ジンは「旧友」の聖霊を呼ぶことにした。 「ネーヴェ。雨を降らせよ!!!」  少年の声とともに現れたガラスのような馬は高くいななき、その馬の走るところ、キラキラとした雨が降る。雨は地面の枯れかけた小麦を濡らす。小麦は若返って穂をぴんとさせている。 「なんと美しい。これがエルフの魔法か」  居合わせた人々がおおっとどよめく。  ジンはしばらく、村長の家でお世話になったけれど、「自分の意思で」村外れに家を用意してもらった。ラキアスはいつのまにかいなくなっていた。  
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