1人が本棚に入れています
本棚に追加
/17ページ
前日譚・叡智の図書館④
⭐︎ ⭐︎ ⭐︎
「ジン。そうか。精霊を召喚しようとしたのか」
ラキアスは、血を流して倒れているジンに駆け寄ると眉をしかめた。
この子の体が冷たくなりかけていた。
この子は自分の「暇つぶし」のために連れてきた。将来的には自分を憎み、その「凍れる力」で自分を倒そうとする存在のはずだ。もちろん、自分は負けたりはしない。ただ、暇つぶしの材料になると思って、この「叡智の図書館」に連れてきて育成していた。
こんな子が愛おしくてたまらないとは、火山の女神の名前が泣くではないか。
「土の上位精霊、ドリアーデよ! 出でよ」
ラキアスは高らかにうたう。現れた土の精霊は、
「あらまあ。ひどい怪我をしたエルフですこと」とあたふたして、ジンの「治療」を始めた。
⭐︎ ⭐︎ ⭐︎
翌週、ジンはラキアスに連れられて、二年ぶりに「外」に出た。
「どこに行くの? ラキアス」
ジンはラキアスに尋ねる。
「人間の村じゃ。エルフの村に比べたらつまらないかもな。お前には」
ラキアスは、閉じられた三つ目を今は獣皮のフードで隠していた。
人間の村に入ると、牛や豚、ニワトリがあちこちで飼育されている。枯れかけた小麦の匂いもたちこめていた。
「こんなところいやだよ。ねえ、ラキ」
その名を言ってはならないと気づき、ジンは慌てて口を押さえた。村長らしき人がやってきて、ラキアスと何か話をしている。
「旅芸人のラキーナさん。それでは、この子が『あの噴火』から生き残ったエルフ族なのですか。水の力も、その、使えますでしょうか」
村長という人はどこか臆病そうなおじいさんだ。
ジンは見下すように言う。
「使えるよ。だって僕は氷属性。この村、水不足だよね。それくらいわかるさ。僕にだって」
「助かります。井戸の水がかれてしまいまして」
村長が手をすりすりさせて願うのが腹が立つ。
ジンは「旧友」の聖霊を呼ぶことにした。
「ネーヴェ。雨を降らせよ!!!」
少年の声とともに現れたガラスのような馬は高くいななき、その馬の走るところ、キラキラとした雨が降る。雨は地面の枯れかけた小麦を濡らす。小麦は若返って穂をぴんとさせている。
「なんと美しい。これがエルフの魔法か」
居合わせた人々がおおっとどよめく。
ジンはしばらく、村長の家でお世話になったけれど、「自分の意思で」村外れに家を用意してもらった。ラキアスはいつのまにかいなくなっていた。
最初のコメントを投稿しよう!