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4歳年上の隼人はものすごく優秀で素敵な大人に見えた。 優しく仕事を教えてもらって、好きにならないわけなかった。 男女問わずにモテていたから、向こうから付き合おうと言われた時は涙が溢れて止まらなかった。 私を選んでくれた奇跡、私と知り合った時に彼がフリーだった奇跡…その運命を守ろうと必死だった。 仕事に支障が出ないように、誰にもバレないように付き合っていた。 彼は社交的で私の知らない交友関係がたくさんあって、説明も紹介もしてくれなかった。 疾しいことはないと信じたかったけれど、何かと気を揉んでいた。 でも大人な彼に相応しくありたいと、ものわかりの良いフリをしていた。 嫌われたくなかった。 付き合って3年くらい経った頃、隼人が週末に友達と旅行に行った。 相変わらず誰と行くなど詳しくは言わないし聞けない。 夜、メールしようと携帯を開いたら誰かにタグ付けされた隼人の写真がSNSに上がっていた。 ‘彼と旅行でーす’と。 笑いながら運転している隼人と助手席で自撮りする美しい女性。 後部座席には誰もいない。 さすがに我慢しきれず初めて彼を責めた。 6人で旅行に行って、たまたま彼女を乗せただけ。 ふざけてタグ付けしたんだろうと面倒くさそうに言った。 それまで溜め込んだ感情も爆発してさら追求したら逆切れされた。 そんなに信じられないなら別れよう、と。 隼人とのお付き合いは嬉しかったけれど、それ以上に苦しかった。 私も限界だった。別れに応じた。 未だにあれは白だったのか黒だったのかわからない。 だけどその後すぐにアメリカへの転勤が決まり、その時の彼女と結婚して一緒に行った。 私はせっかく憧れて入社した仕事まで失うもんかと頑張った。 幸い技術部への異動願いが叶い、隼人と仕事上の関わりも無くなった。 『あれから2年、再会する時には私も結婚して見返すはずだったんだけどなー。』 『すればよかったのに。相手いないの?』 『簡単に言うよねぇ。赤い糸の相手なんてなかなかいないよね。』 『さっきの人は赤い糸じゃないの?』 『今朝テレビから聞こえてきたんだけどね…あの人は黒い糸って感じかな。』 強く惹かれるけど近づくと苦しめられる相手。 どんなに好きでも幸せな未来が見えない相手。 『へぇ。』 古園くんは特に黒い糸の意味を聞かずに気の抜けた返事だけをした。 『あ、そうそう、あの人、古園くんの事を私の彼だと勘違いしたかもしれないわ。』 『どうでもいいですよ。』 返事はそっけないが、話しを聞いてくれたり受け止めてくれたりと優しい。 『朝から変な空気に巻き込んでごめんね。』 一方的なことが多すぎてさすがに申し訳なくなってきた。 『大学でボランティアサークル入ってたんで人助けは得意ですから。』 その表情といつもの様子からは想像できない言葉に、また心を軽くしてもらった。
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