7

1/1
前へ
/7ページ
次へ

7

『で、品川駅までお願いします。』 古園くんは少し考えてから運転手さんにお願いして、座席に身を投げ出した。 田町から品川まで、ひと息つくにはちょうど良い距離かもしれない。 そんなことも考えながら、私はしばし放心状態で彼の横顔を見ていた。 『あんなのに巻き込まれたら最悪ですよ。』 私の方を見ずに呟いた。 『そうだね。』 私も前を向いて同じように座席に身を投げ出した。 『やり直すつもりはないって聞こえたから連れ出したんですけど。僕、余計なことしてないですよね?』 『助かったよ。さすが人助けが得意なだけあるね。』 連れ出してくれて本当に助かったとしみじみ思う。 隼人に未練が無いのに彼女に立ち向かう必要はない。 奥さんにとっても隼人は黒い糸の相手だったのかな。 あの時睨まれて怒りも覚えたが、落ち着いてみると同情に似た気持が芽生えていた。 『あの言葉、真に受けたんですか。誰彼構わず助けるわけじゃ無いからね。なんで僕と毎朝コンビニで会うのか考えてみて下さい。』 …あ、そういうこと…。 『僕と付き合って下さい。返事は僕が黒い糸の相手かどうか見極めてからで良いですよ。』 前を向いたまま話す古園くんは相変わらず無表情なのに耳は赤くて、赤い糸の相手だといいなと思わせてくれた。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

17人が本棚に入れています
本棚に追加