神々の誘惑

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 犬神inuhiko様のそうした話を聞きながら胸の底で波打つ神妙な感覚の海をに心地よく浮き沈みしていたら、またもや唐突に、ぴょんと僕の目の前に湧いて出たのは兎神ぴょんきち様である。  兎神ぴょんきち様は、ぴょんぴょんと僕の家の中を素早くグルリと一周して 『これは少しよろしくない。部屋は生活するところじゃ。適度に清潔に整えることは宜しいが、人間はまだ神ではなく、またAIでもない。毎日のように掃除や整理整頓に時間を費やし体力を消耗していては本来の目的に到達できぬ。もっと肩の力を抜き、本来あるべき己れの声を大切になさいませ』 などと言う。  『その話はまだしておらぬ。ぴょんきち様は相変わらずせっかちじゃのう。唐突にそう言われても令草様がどこまでご理解なさるか』  犬神inuhiko様は、そう言いながら、まるで犬のようにクンクン、辺りの匂いを嗅ぎまくっている。    兎神ぴょんきち様は声高に楽しげに笑い出す。 『あはははっ・・・仕方がないのだ。元来、私は兎神であるから。心身共にせっかちで天衣無縫なのだ。思うがままに飛び跳ね自由気ままな言動ができることで神になれたのだから。ははははははっ・・・』  兎神ぴょんきち様の言葉はキラッと光り、僕の中に続く一筋の道を照らし出した。  部屋中の匂いを嗅ぎ回った犬神inuhiko様は、また僕の椅子に座り込むと、何か考えをまとめるように目を閉じて一人頷いていたが、やがて頷きはコクリコクリと眠たげな脱力へと変わり、とうとう本当に軽いイビキをかいて眠り込んでしまった。  僕もだんだん眠くぼんやりとして来た。このまま犬神inuhiko様と一緒に眠ってしまおうかとも思ったが、目の前に一世一代の貴重な来客である兎神ぴょんきち様がいらっしゃるのに眠る訳にはいかない。 「今日は暑いですね。冷たいレモンスカッシュはお好きでしょうか」  僕は、ぴょんきち様に、そう声をかけながら、冷蔵庫から、ぴょんきち様よりお送りいただいたレモン果汁の瓶を出した。 『あら、ありがとう。令草様が作るレモンスカッシュをご馳走になれるなんて幸せだわ』  レモン果汁に甘味のある梅シロップを少々加え炭酸水で割るだけだ。 「この梅シロップは僕の手作りです。ぴょんきち様からお届けいただいたレモン果汁も無添加ですから純粋に果汁とハチミツだけの体によいレモンスカッシュだと思います。暑いので氷は多めに入れておきますが、美味しく感じたなら、おかわり自由です」  ぴょんきち様は瞳をキラキラ輝かせ、ゴクリと一口飲むと世にも幸せそうな顔で天を仰いだ。 『なんて美味しいんでしょう!令草様は何事にも真っ直ぐに研究熱心ですね。私には真似できない真摯なお人柄、どんな神様になられるのか、それはそれは楽しみでごさいます』
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