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学生時代からサラに友だちはいなかった。他人と関わることが苦手で避けていたから。
学校を卒業してからは家にこもって掃除や料理をするだけの毎日だった。
両親は仕事が忙しくあまり家にいなかったので、子どもの頃から祖父のパウルがサラの面倒を見てくれた。感謝している。だからパウルが行こうと言えば、サラはめんどくさい気持ちを何とか封じて一緒に出かけた。
それで渋々遠出した飛行船の試運転イベントでのこと。
操縦席から降りてきたロルフを一目見た途端、雷とつむじ風がいっぺんに落ちてきたような衝撃をサラは受けた。
その眩しくて屈託のない笑顔。がっちりした体格、芯の強そうでいて甘いマスク。飛行士という華やかな職業。
それまで、ずっとつまらない毎日だった。でも彼と結婚できたら一変するかも。そう思えた。
けれどサラには何もない。告白する勇気も釣り合う自信も自慢できる長所も特技も。
ロルフが歩く、振り返る、微笑む。どんな動作にもキャアキャア黄色い声が上がる。彼に気のある女性は大勢いるのだった。
恋人候補NO1と言われていたのは隣村のミスコン優勝者で、格別な美人だった。サラは彼女が仮面舞踏会に出かけるのを知り、隙を見て彼女の仮面の裏に漆を塗った。その後、村で彼女を見かける者はいなくなった。
次点はスタイル抜群の、ダンスが得意な女性だった。サラは彼女のダンスシューズに細工をした。激しい踊りとジャンプの最中、その靴の紐が切れた。そして彼女はもうダンス自慢ができなくなった。
気丈夫で人気のあった看護師には男癖が悪いとの噂を流し、賢いと評判の学者の女性を論文発表に遅刻させるなどした。
他にどうしていいかわからなかったのだ。なぜならサラ自身に売り込むような魅力が何もないから。浮き上がるにはライバルを貶めて引きずり下ろすしかなかった。
そうしてサラはロルフを手に入れた。
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