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がくん。
ある日、サラの勉強椅子の脚が折れた。パウルのお父さんのお父さんのそのまたお父さんが作った――つまりものすごく古い。椅子ごとひっくり返ったサラの重みで、背もたれまでバキバキに。
「じいちゃん、これ直る?」
「そうさのう……」
いつでもどんなことでもサラの頼みごとを叶えてきたパウル。が、その腕はもう器用には動かず、ボードゲームの駒を置いたり返したりするくらいの力しか出ない。サラの父も母も「椅子? 自分で何とかして」と言うだけ。
仕方なくキッチン用の椅子を借りて机に向かったが、何か落ち着かない。
「素敵な椅子が欲しいなあ。じゃなかったら自分で直せるか作れるようになりたい」
そう思いながら、次の日もまたスクールバスの窓の外を眺めていた。いつもの癖で、妖精を探すためだったけれど。
「ん?」
林の手前のカーブでスピードが落ちたとき、ガレージが見えた。恰幅のよいエプロンおばさんが座っていて、いくつかの家具が乱雑に並んでいた。「ガレージセール」との手書きの幕が掲げてある。
もしかして。いやでも。ここで降りてしまったら帰りはどうする? 等々、サラが逡巡している間に、バスはそのガレージを通り過ぎていく。
瞬間、その木立の中を、何かが羽音を立てて横切った。
――妖精さん?
「お、お……降ります!」
学校でもろくに手を挙げたことがない大人しいサラ。でも思い切って声を振り絞った。
運転手さんが急ブレーキをかけてくれ、サラはかなり行き過ぎた坂道を走って戻る。
そのおばさんの座っていた椅子は、さっきの第一印象よりずっと上等だった。背もたれの緩いカーブも、透かし彫りの模様も、座面の柔らかな反発も。
逃すな。チャンスはそこここにあるよ。
妖精さんがそう教えてくれたのだとサラは思った。
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