【白のはじまり】

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 もう嬉しくて仕方ない。サラの新しい勉強椅子はとても快適で、読み書きも算数も進んでしまう。 あのエプロンおばさんは豪快で、「持っているだけのお金でいいわよ」と椅子を譲ってくれた。 おまけに。 おばさんが椅子とサラを車で送ってくれたとき、玄関先でまた羽音が聴こえた。それでサラは、壊れた椅子をおばさんに見せてみた。 「これまではこれがお気に入りの椅子だったの」 するとおばさんは「うちの旦那さんなら直せるかも知れないわ」と、後日2人で訪ねてきてくれたのだ。 旦那さんは手際よく支えの木材を釘で打ち込み、やすりで凸凹を整えた。 「へえ、そうやって直すのね」  サラは乗り出して作業に見入った。     あのオンボロ椅子が、みるみる宝物のように輝きを増す。そして、それはサラの体重を優しく受け止め、背もたれが背筋をピンと伸ばしてくれるように生まれ変わった。素敵な椅子が2つになった。  こっちはもうすぐ生まれてくる妹か弟にあげよう。サラはそう考えて浮き浮きした。   その後、サラはその夫婦のもとをよく訪ねるようになった。椅子だけでなく他の物の直し方も教わった。道具も見せてもらい、説明もいっぱい聞いた。 そのうち、家の中の何かが壊れても「サラ、これ頼める?」と父や母やパウルにもお願いされるまでになった。 やがてサラの修理の腕はご近所でも評判になり、「この棚、何とかならないかしら?」などとお呼びがかかってくる。  サラは快く飛んでいき、きれいに直す。すると、みんなとても感謝して、お礼に髪飾りや特製のチーズやキルトの毛布などを持たせてくれた。  そんな風に、知らなかった素敵な物をどんどん手に入れ、好きなものがたくさんに増えていったのだった。
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