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「あら、お馬」
棚の修理依頼で訪ねたその家は牧場だった。ご主人が馬に乗ってヤギや羊を見守っている。ご主人と馬が一体となって駆け抜ける様はとてもカッコよく、サラは「素敵素敵」と目を輝かせた。
するとご主人が言った。
「乗ってみるかい?」
「いいの?」
サラはすぐにうなずいた。
やってみたい。そう思ったならやってみる。それが当たり前になっていた。
椅子を見つけたときからそうなった。そこから広がるものがあることに、サラは気づいたのだ。
もう妖精が現れようが現れまいが関係ない。今のサラは、何かのチャンスを逃さない、逃したくないがための反応を覚えたのだ。
鐙に足をかけて背にまたがると、馬の上は思ったよりも地面から高かった。ちょっと怖さもあったけれど、それまでとは景色が違う。空気もより澄んで美味しい気がする。とても気持ち良かった。
常足ができるようになっても走らせるのは難しかった。何度も失敗して擦り傷や痣などを作り痛い思いもしたが、まもなくコツをつかんだ。
そうなると、その乗り心地が癖になった。良いことがあった日には馬に乗って余韻に浸る。嫌なことがあったときも馬に乗って風と共に吹き飛ばす。それがサラの日常になった。
そうやって色々な関係が広がって友だちも知り合いも増えていく。
やがて年頃になると、結婚式に呼ばれることも多くなった。自分もいつか、とは思うものの、恋人を作るよりも興味を惹かれることがたくさんあった。
今楽しみなのは、数里離れた村での飛行船の試運転という大イベントだった。
遠方だからとか男まさりに見られるとか。そんなことは何一つ気にならなかった。
サラには今、マリットという相棒がいる。乗馬を教えてくれたご主人の牧場で生まれた雌馬を譲ってもらった。とっても気が合うマリットと一緒なら、どんな長い遠出もへっちゃらだった。
そうしてその日もマリットと一緒に出かけたのだ。
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