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飛行船は想像以上に大きくて、どこかの家がすっぽり入ってしまいそうと驚いた。空に浮いていく様は壮大で、サラはぽかんと口を開けて見上げていた。
世の中にこんなすごい乗り物を作って、動かして、浮かばせる人がいるなんて。どうやって? どんな人が? どれだけの準備を経て?
次々と興味と尊敬の念が浮かんでくる。無事に着陸し、操縦士が降りてくると、サラは心の底からの拍手を送った。
と、目が合った。かなりの距離があったのに、ゴーグルを外したその青年と。サラの心臓は、生まれて初めてってくらい大きく跳ねた。
病気? 昨日食べたチーズはいつ作ったものだっけ? いや昨晩毛布を蹴飛ばして寝ていたせいで胸が冷えた? 明日ドクターのとこに行かなくては。
でも、そんな明日のことより、今。
あの青年と話したい。どんな人なのか知りたい。その思いが、瞬く時間さえ置かず、サラにマリットを繰って青年のもとへ走らせた。
「ねえ、あなたがその飛行船で行きつくところまで、追いかけてってもいいかしら?」
初対面の女性のいきなりの素っ頓狂な申し出に、青年は目をひん剥いた。
「え、君が? その馬で? ……えっと、飛行船は速いんだよ。海も超えるし、山もひとっ飛びするし……」
青年はちょっと困ったように言ったが、サラは動じずニッコリ返した。
「遅くても遠回りでも、いつか追いつくことはできるわよね?」
「そりゃ……」
「あなたに待つ気さえあれば、あたしは待たせる価値のある女だと思うわ」
青年は唖然とし、一息置いて吹き出した。
「めちゃくちゃ前向きな人だな」
「そう?」
たった1回しかない出会いもある。サラはそういった良い出会いを一つ一つ掴んで積み重ねてきた。だから今もこれからも見過ごさない。
そしてそれが幸せを呼ぶ。その幸せが次の幸せを。サラはそう確信していた。だから。
青年の顔から呆れたような色は消え、微笑んで膝をつく。そして、マリットの上のサラにうやうやしく手を差し出した。
「君に、僕のもとに来てくれる気があるのなら」
サラも笑みをたたえて自分の手を預けた。きっともう一度この人の手を握ると決めていた。
そうして数年かけて青年のもとへ辿り着いた。その青年――ロルフも、ちゃんとサラを待っていた。
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