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「その絵、もうすぐ完成ね。コンクールに出すのでしょ?」
「ああ。でも他に仕事も見つけてきたよ。絵だけで食っていける夢を見るほど子どもじゃない」
サラは肩をすくめた。
「あたしが働いているじゃないの」
サラは、花を売る以外にもスクールバスの運転手をしている。家具の修理も都度受ける。手作りの髪飾りやアクセサリーの売れ行きも良く、知り合いを通じて乗馬の講師を頼まれたりもする。いずれも評判が良く、食べるには困らなかった。
「だからあなたは絵を描く時間を削らないで。夢を全力で追いかけて。それでもダメだとわかったら働いてもらうわ」
ロルフは笑った。
「相変わらず君はめちゃくちゃ前向きだな。どこにそんな原動力が?」
「だから妖精さんよ。下を向いたままふてくされていたら見えないまま。けれど顔を上げれば誰にでも見える。それが幸せを呼ぶのよ」
「ふうん。僕にも見えるといいんだけどな」
「この庭にも、きっと来てくれるわ。そう願って作っているのだもの」
ロルフは腕をまくった。
「なら頑張るよ。全力で。だからーー」
「はい?」
「ーーこれからもよろしく」
サラは微笑んだ。
サラはサラの好きなことをする。ロルフはロルフの好きなことをする。そんなお互いを大事に思い、一緒に歩いて行こう。そういう笑みだった。
ロルフが絵描きとして芽が出るのは、この2年後のことである。
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