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食材の残りをもらえるからと、サラは飲食店で働き始めた。文句たれやスケベじじいの客ばかりで消耗し、その割に賃金は安い。でも、割のいい仕事ができるような特技もないので仕方ない。
毎日毎日疲れ切って帰った後にごはんを作って片付けて。ロルフはその間ずっと絵を描いているだけだ。
サラだけ大変でサラだけ疲れてサラだけやつれていく。ロルフは好きなことだけをして他は全部サラにおんぶに抱っこ。しかも「絵の具を買ってくれ」「遠出する汽車賃をくれ」などと、稼ぎを持っていく。
彼はサラを財布だとしか思っていないのじゃないか。写生に出かけると言っては女と会っているのじゃないか。こっそり美味しいものを食べたり遊んだりしているのでは。
世の中にはサラより美しくて聡明で、それゆえ自信に満ちあふれた女がごまんといる。だから。
サラは何一つ誇れるものを持っていない。彼をつなぎとめる自信がない。だから。
不安と疑念と不信しか湧き起こらない。
「また落選したよ……」
そしてロルフのその言葉は聞き飽きた。もう励ます気もしない。どこがいいのかさっぱりわからないロルフの絵は、おそらく今後も賞にかかることはないだろう。
でもロルフにはサラがいて、サラが生活を支え、サラが食べさせてくれ、絵に必要な物も買ってくれる。何もしないで自分だけ好きなことを永遠にやっていけると思っている。
そして笑顔で言うのだ。
「これからもよろしく」と。
いつまで。どこまで。
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