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day.1 夕涼み
タバコ辞めて。給料貰ったならちゃんと家に入れて。ガニ股は卒業してよ。全部正論なのに、言ったら喧嘩になった。
腹が立ったから近くの小さな公園に来た。一才になった娘を抱えて。
今年の最高気温を記録した今日の太陽を公園の土はまだ抱え込んでいた。履いてきたペラペラなビーサンの足裏が熱い。私の肚とおんなじだ。
腕の中で娘が身を捩る。娘の小さな膝に負担にならないよう公園の黒い地面にそっと下ろした。
地面に足がつくなり娘は歩き始める。一生懸命両脚をふんばり、身体を左右に振りながら。自分で立っている。
じゃあ、私は?
思わずしゃがんだ私の肩から上を、夕ぐれの涼しい風が通り抜けていった。
どこかで風鈴の音が鳴る。空の上まで澄み透るような綺麗な音色だった。
チキショー、タバコ以外は許してやろうかな。ううん、給料は譲れない。
不思議と家を出た時のグツグツした怒りは遠のいていた。
ジャリッと音がし振り向くと、私とお揃いのビーサンを突っかけた旦那が立っていた。
「帰ろう」
心細げに言うから頷いてしまう。
旦那の後ろを娘の手を引いて歩く。歩きながら私は、心の中の天秤が家族と自分の間で揺れる音を聞いていた。
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