day.12 チョコミント

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day.12 チョコミント

 昼休みは大概屋上過ごすようにしている。仕事がひたすらパソコンと睨めっこだから、休憩時間くらいは外の空気を吸いたくて。春先までは同様に考える社員たちで結構賑わっていたんだが、最近は違う。僕意外一人か二人いたらいいほうだ。何しろ、暑いからね。昼時だと頭の真上から太陽の光が降り注ぐ。社長の気まぐれで作られたビオトープと給水塔の影がなければ僕だって空調の効いたオフィスでぼうっとしてる。そうしないのは、多分僕が田舎育ちだから。アウトドア派な訳じゃない。屋内で縮こまったまま一日過ごせるほど我慢強くないってだけた。  あと、最近屋上に気になる子が来るから……。  その子は、屋上に来ると昼ごはんもそこそこに煙草を左手にチョコミントの棒アイスを齧るんだよねぇ。多分新入社員。つい心の中で「その子」って呼んじゃうのは、僕が四十のおじさんだから。二十歳そこそこなんてのは、僕からすれば男の子だから。  いつも煙草とミントという組み合わせっていうのが面白い。好きな人には申し訳ないけど、僕はパクチーが大の苦手で、ミントも要するに葉っぱでしょという認識しかない。花粉症にはミントオイルがいいって一時期聞いたけど、僕は花粉症はないのでミントのありがたみを感じたこともない。そしてさらに分からないのがミントチョコだ。あのスースーするフレーバーと甘ったるいチョコの組み合わせとなるともう想像の範囲外なんだ。(好きな人がいたら、ごめん)だから僕はそんな未知の食べ物を飽きずに食べられるその子が興味深いと感じたんだ。それでつい声をかけてしまった。何しろ数少ない屋上の愛好家同士だしね。 「よく食べてるね、それ。好きなの?」 「いえ、別に」  そっぽを向いたまま答えるその子に僕は携帯灰皿をぱかっと開けて差し出す。僕の行動が予想外だったのか、こちらを向いたその子はぎょっと固まってしまった。あー、もったい。アイスがとろけて棒から落ちそうになっているよ。僕は思わずその子の手を掴んで、アイスをパクッと口に入れた。今にも落ちそうだったんだ。そこで自分の失敗に気づく。アイスを全部食べてしまったんだ、僕が。あちゃー、大口開けすぎた……。 「ごめん」とその子の顔を見るが、彼はぴくりともしなかった。驚きすぎて息をすることさえ忘れてしまっているみたいだ。  そりゃそうだよね。突然声をかけてきたおじさんに自分のアイスを横取りされたら、誰だって唖然とするし、怒りにかられるのが普通だ。僕は早口で弁解を試みる。 「本当に、ごめんね。このアイス、煙草をスパスパやりながら食べるものじゃないと思って灰皿出したんだけど無駄になったね。お金あげるから新しいの買っておいで。あ。この場合、僕が買って来るべきかな」  立ち上がると、クイッと後に引っ張っられた。振り返ると、その子の形良く長い指が僕のシャツを掴んでいる。 「何?」 「いいんです」 と、目を伏せたまま、その子。 「いや、よくないでしょ。君、いつもここでこのアイス食べてたじゃん。好物なんだよね?」 「煙草も、チョコミントもただの背伸びなんで」 「背伸び?」 「大人っぽく見られたかったから。貴方に相応しいって」 「あ……、そうなの」  う、ん? 変だな。若い子の言葉だからか、言われている言葉の内容が頭に入ってこないよ。僕がウンウン唸りながら首を傾げていると、またクイッとシャツを引っ張られる。 「あの、返事をください」  今度はまっすぐ見上げてきた。うわ、よくよく見ると顔面が強い。艶のある黒髪に切れ長の目、なだらかな鼻梁、唇はぽてっとしてるけどそのおかげで顔の印象が柔らかくなっている。イケメンっていうより美人さんだね、こりゃ。  と、見惚れているとその子は立ち上がって僕にその強い顔面を近づける。  ウワー、近いよ。どうしようおじさん臭かったら。焦る僕にその子が言う。 「俺告白しましたよね。今、貴方に」 「告白……、あーそうなの? 君、僕なんかでいいの?」 「はい。俺、貴方がいいんです」  至極真面目に、当然のように答えられ僕の頭はふたか真っ白になる。  気づけば、驚くほどあっさり「いいよ」と言っていた。
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