day.20 摩天楼

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day.20 摩天楼

 Uberの子から受け取った弁当片手に窓際に立つ。ガラス越しに見下ろすと他所のビルの明かりや道路を行き交う車のライトがダイヤモンドみたいに煌めいていた。  男は社長だった。自分の会社として、辺りでは一番高いこのビルを借りた。成功とは一番上等な人間になることだと思っていた。家族も恋人も捨て一心不乱に仕事だけをしてきた。金も地位も一番の高みに上り詰める為に。しかし登ってみるとまだまだ上があると気付かされる毎日……。  エレベーターに乗ってくるだけならUberの兄ちゃんもここまで登ってきたなぁ。ポカ弁を貪り食いながら、虚しくため息を吐く。飯にのっていたしっけた海苔が歯に張り付いた。鏡代わりのガラス窓に草臥れたオッサンの自分を映す。口を開け歯を剥き出しにしついた海苔を舌でこそげる。  こんな高いところにいても、地を這うように生きていた頃と同じものを食べている。目下のダイヤモンドの煌めきが、輝きを失った様に見えた。
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