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 騎士はソフィアの元を離れた後、彼女を窮地から救い出すためにかなり手を尽くしていたそうだ。だが、その途中で下手を打ったのだという。 「信じられるか。二回も失敗したんだ」 「まあ。でも、人間、生きていれば失敗を犯すものです」 「だがその失敗が致命的なものならば、それで一巻の終わりだ」  騎士にとっての一つ目の失敗は、ソフィアの目を治すために手に入れた魔女の万能薬の存在を他人に知られてしまったことだった。この世界には不思議な力を持つ魔女がいる。だが、誰もが魔女に会えるというわけではない。魔女は気まぐれでわがままな生き物。彼女たちに気に入られなければ、願いを叶えるどころか会うことだって難しい。そんな魔女にお目通りが叶い、その上、不可思議な薬を手に入れた彼のことを周囲は羨み、そして妬んだ。  特に予想外だったのは、彼の主君と彼の従者が騎士を裏切ったことだろう。彼は万能薬を守る代わりに、騎士としての地位を失った。  もうひとつの失敗は、この国の人間が思ったよりも愚かだったことだ。ソフィアの家を乗っ取った親戚と元婚約者たちは、この領地でよく育つ植物の栽培に手を出した。小麦の栽培には適さない土地だったが、その特殊な植物の生育には驚くほど適した場所だったのだ。だが、それは人体に悪影響をもたらす薬物の原料だった。  作れば作るほどよく売れる。だがそれは最終的に国を損なうことになる。だから彼は、主君と従者に裏切られたあとも、必死で有力貴族たちに働きかけた。この国の未来を信じて。その結果、彼は自身の手足に致命的な欠陥を得ることになる。すでに薬物は、この国の上層部までむしばんでいたのだ。 「騎士でもなく、傭兵としても働けなくなった俺は、最後の手段に出ることにした。夜盗として、この土地を襲うことにしたんだ。すでに例の畑には火がかけられている」 「おひとりで仲間を集められたのですか?」 「いいや。隣国の、国境沿いの領主に取引を持ちかけた。この土地を焼き払う汚れ役は、俺が担うことで承諾してもらった」 「だから、夜盗にしては動きが統率されていたのですね」 「そんなことまでわかるのか」 「目が見えない分、耳や鼻が敏感になるのです。私が名乗らなかったあなたに気が付いたのも、声や歩き方の癖、そして身にまとう香りが同じだったからですよ。足を悪くされてからは、その癖もずいぶん変わってしまいましたけれど」  労わるように、愛おしむように、ソフィアは騎士の身体を撫でた。
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