(3)

1/1
前へ
/9ページ
次へ

(3)

 もともとかしずかれる生活をしていた伯爵令嬢が、自分ひとりで生活するのは困難を伴う。目も見えないのであればなおのこと。それでも少しずつ真っ黒で静かな世界にも慣れていく。悲しいことではあったけれど、ひとりでいれば無駄に傷つかずに済むことを彼女は痛感していた。 「喜べ、役立たずのお前に仕事ができたぞ」  庭師小屋に押し込められ放置されていたソフィアが屋敷に呼び出されたのは、それからしばらくしてのことだった。事情を聞く暇もなく、あれよあれよという間に身体中を磨き上げられる。久方ぶりの風呂のため、何度も水を変えねばならないほどの汚れだったが、おかげさまで見た目だけはそれなりの令嬢に仕上がった。 「今日は、これからお客さまが来る。お前は、そのお客さまのお相手をするように」 「これから、ですか?」  もう日はすっかり落ちてしまっている。客人が到着するのは、夜になるだろう。そんな時間に妙齢の女をあてがえば、期待されているもてなしというのはただの話し相手ではないことは未婚のソフィアであっても容易に想像がつく。 「それは」 「余計なことは話すな。お前はただその身を任せていれば、それでいいんだ。なに、目をつぶっていればすぐに終わる。ああ、そういえばもともとお前は目が見えないのであったな!」  どっと周囲で笑いが起きる。あまりの惨めさに唇を噛みしめながら、ソフィアは「その時」を待った。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

27人が本棚に入れています
本棚に追加