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 ソフィアが向かわされたのは、まだ年若い青年の元だった。彼は、ソフィアが部屋を訪れるとぎょっとしたように後ずさった。 「失礼。先ほど部屋に届け物をすると聞いていたが、これは一体?」 「申し訳ございません。ご存じかもしれませんが、こちらはとりたてて価値のある名産品などがある土地ではございません。そのため、少しでも客人をもてなすために私を差し出したのでしょう」  年若いソフィアは元手のかからない贈り物だ。受け入れてもらえれば御の字、拒まれたとしても誰も困りはしない。まあ受け入れられたその時は、ソフィアは傷物として令嬢の価値を失い、今後も使い勝手の良い贈り物としてたびたび客人たちに共有されることになるだろうし、拒まれれば一夜の相手にすらなれなかった価値のない女として嘲笑われることになる。結局どちらに転んでも、損をするのはソフィアだけ。 「……これは困ったな」 「そうでしょうとも。お断りしていただいても問題ありません。むしろ、お断りするべきだと思います。彼らは、あなたをどうにかして味方に引き入れたいのです。何やらきな臭い話も耳にしております。可能ならば、この土地から早く離れる方が賢明でしょう」  ここまで言えば、察しの悪い人間でもかかわってはいけないと理解できるはずだ。ところが、男はソフィアが想像していたよりもまっすぐで、善良な人間だった。 「賢いお嬢さん。なぜ、君は見ず知らずの俺に親切にしてくれる? 俺が逃げ出せば、君に迷惑がかかるのでは?」 「私のことを聞いてはいけません。知れば、心優しい方ほど心を痛めるでしょう。どうしようもないことだというのに、きっと罪悪感にさいなまれるようになる。私はどうせこれから、さらに落ちていくだけ。他の方を巻き込みたくはないのです」 「それは、君の目が見えないことと関係があるのか?」 「……本当に困った方ですこと」 「俺は騎士だからな。不正を見逃すことはできない」  男の生真面目さは、ひとり傷ついていたソフィアの心をじんわりと温めていく。その夜、肌を重ねることはなかったけれど、彼はソフィアを気に入ったと屋敷の人間に告げ、彼女が今後不自由しないように取り計らってからこの土地を後にした。
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