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 それから騎士からは、定期的に手紙と贈り物が届くようになった。その中には野草を使ったお茶や香の作り方まで載っていて、ソフィアはそれを特に喜んだ。 「庭の草花を使うなど、お前にぴったりだな」  そう言って彼女を虐げる者たちは高価な贈り物はすべて取り上げてしまったが、手紙だけは彼女に残してくれた。返事を書かずにいて、金づるが消えてしまうことを厭うたらしい。目の見えない彼女の代わりに、使用人たちは周りの目を盗み、手紙に書かれた野草を探す手伝いをしてくれるようになった。  だが、騎士からの手紙はある日突然来なくなった。 「捨てられたのだ、この役立たずめ!」  ソフィアの家を乗っ取った親戚はそう叫んでいたが、おそらく事情は異なるだろうと彼女は考えていた。彼はソフィアの苦境を知ると、彼女が本来の権利を取り戻せるように働きかけてみると言い切っていたのだ。 『大丈夫だ。俺には、それなりに伝手がある。きっと君を救い出してみせる』 『どうして初めて会っただけの他人に、そこまで心を砕いてくださるのですか?』 『それは俺が騎士だからだ……と言いたいところだが、ただの一目惚れだ。だからもしも君がこの状況を脱出できたなら、その時は』 『その時は?』 『それは、その時が来たら話す』 『ふふふ、楽しみにしております』  あの日の約束を守るために彼は動き、その結果、大変なことになってしまったのではないか。自分にかかわったばかりに、あんな素敵なひとの未来を台無しにしてしまった。そのことが、ソフィアは何よりも辛かった。  屋敷には、怪しげな人々が出入りするようになる。騎士がソフィアとやり取りをしていた間には見かけなかった類の人間たちの出現に、彼女はますます騎士が何らかの苦境に陥ったのだと確信していた。 「ソフィア、彼らのお相手はお前が務めるように」  かつて騎士への相手を迫られたように、再びソフィアは夜の贈り物として部屋に届けられるようになった。だがそのたびに彼女は、騎士が教えてくれたお茶と香を持参し、危険を回避した。お茶と香には、眠気を催す作用が入っていたのだ。おかげで彼女は、貞操を守り続けることができたのである。  そのような客人の中には、時々風変わりな者も現れた。火傷を負った傭兵に、手の不自由な商人。耳を削がれた職人に、足の悪い薬師。彼らは自分たちと同じように身体の不自由なソフィアを憐れんだのか、彼女に手を出すことはなく夜明けまでおしゃべりを楽しんでいった。その上、彼女がお茶と香を使うのをためらっているとみずからお茶を所望して、浴びるように飲んでいくのだ。  だが、ソフィアの家を乗っ取った親戚と元婚約者は相当危ない橋を渡っていたらしい。ある日、屋敷は夜盗に襲撃された。そして、そのうちのひとりにさらわれてしまったのである。
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