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「悪く思うなよ、お嬢さま」  震える男の手に、ソフィアは優しく自身の手を重ね合わせた。 「この時を待っておりましたわ。私の騎士さま」 「……何を言って」 「あの日交わしたあなたとの約束が、私の心の支えでした。もちろん、あなたが届けてくださったドレスも宝石も、嬉しかった。家人に取り上げられ例え私の手元には届かなくても、あなたが私を忘れないでいてくれた。それだけで十分だったのです」 「……やめろ。そんなもの、俺は知らない」 「いいえ。やめません。それからしばらく手紙が来ない時期が続き、再びあなたが私の元へいらっしゃった時は、もちろん驚きました。たくさんの傷を負い、さまざまな姿に身をやつして……」 「気が付いていたのか」 「もちろん。ですから、お茶や香を使うつもりはなかったのですけれど。騎士さまは毎回お茶を無理に用意させて浴びるように飲んでしまわれるし、事情がおありのようでしたから」 「まさか」 「毎回違うご職業で現れるのでどうして良いか困りました。気づかない振りをするのは、骨が折れましたわ。だって大切な方が目の前にいるのに、触れることさえ叶わないのですから」  私はこんなにあなたに会いたかったのに。 「あなたが届けてくれていたのは、光であり、世界でした。あなたが、私の希望そのものだったんです」  そう言って、ソフィアは彼の背中に両腕を絡めた。
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