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「戻らないよ。アルトワ伯爵ご自身がお決めになられたことなんだから」
「俺が白紙に戻そうと尽力したら?」
ピエールはそう言うとアランの表情を伺い見た。
アランの顔からそれまでの朗らかな笑顔がスッと消え、訝しむような表情になった。
「おい、ピエール、どうしたんだ?」
「ミス・カンブルランはこの結婚を望んではいない。それにアルトワ伯爵はこの結婚の裏に別の意図を持っているのだと思う。そんな結婚は」
「上級官僚だとしても、ただの田舎貴族が王太子の希望を白紙に戻せるわけがないだろう」
アランはピエールの言葉を切って言った。
「お前は黙って見ているだけでいいのか?」
ピエールはアランの目を正面から見据えた。
「いいもなにもないだろう。何を言って」
「お前は愛しているのではないのか?」
今度はピエールがアランの言葉を遮った。
アランはピエールの言葉に驚いて言葉に詰まる。
「友人の抱えている苦悩など見ていればわかる」
ピエールは真摯な表情でそう言った。
アランの顔から笑顔は消え、見るからに動揺し始めていた。
「アルトワ伯爵がお前に近づいたことも、それに関係があるのかもしれない」
「えっ」
アランは目を見開いた。
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