王太子の開いた舞踏会

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王太子の開いた舞踏会

 ルイ王太子殿下、通称アルトワ伯爵の開いた舞踏会の日になった。  二週続けて舞踏会へ行くことになり、手持ちのドレスが限界だと言って母であるカンブルラン子爵夫人は大騒ぎをしていた。 「翌週も舞踏会へ誘われても困ることにならないよう、急いでドレスを新調しなければなりません! まったく、成長期って恐ろしいわ」  カンブルラン子爵夫人は大声で使用人に指図をしていた。  そんな母の心配はつゆ知らず、サンドリーヌは着飾られている間も胸が弾んで落ち着かず、今にも飛び出していきそうなほどだった。 「サンドリーヌ様! 少しはじっとしておいてくださいまし! これではいつまでたっても終わりませんよ」 「いいじゃないオデット。落ち着かないのよ。あ~早く時間にならないかしら」 「あと半刻もすれば旦那様がお見えになりますよ」  乳母のオデットはサンドリーヌをなんとか押さえつけると裾を直して髪も整えた。  サンドリーヌは若い娘特有の艶々とした健康的な肌と、濃いブラウンのサラサラとした細い髪を持つ可愛らしい娘だった。好奇心でいっぱいのクリクリとした瞳に小さな口を携え、まだ幼さの残るホッソリとした肢体を、レディらしい舞踏会用のドレスで包んでいた。  15分後にカンブルラン子爵が娘を迎えにやってきて、二人は連れ立ち馬車へと向かった。カンブルラン子爵が先に乗り込み、サンドリーヌが続いて乗り込もうと入口にかがみ込んだ時に、父ではない紳士の声が聞こえた。 「ごきげんよう、ミス・カンブルラン」  父の向かい側の席に、声の主が笑顔を見せて座っていた。
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