王太子の開いた舞踏会

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 広間へ入るとその大きさと派手さにサンドリーヌは圧倒され、しばし言葉を失った。  壁一面にセンス良く花が飾られていて、その間にはガラスの置物が鎮座している。シャンデリアの光を反射させ、キラキラと輝く光が会場中に放射するように配置が成されている。  異国のものであろう、珍しい形の椅子とテーブルがあちこちに置かれていて、テーブルの上には見たこともない果物がたっぷりと盛られている。  色とりどりの仮面をつけた使用人たちが、客人の間をぬうようにして飲み物を配っている。 「久しく来ていなかったが、さすがはアルトワ伯爵というべきか。センスがあるのかないのか私にはわからんが、面白いことだけは確かだ」  カンブルラン子爵は愉快げにそう言うと、使用人からシャンパンを受け取った。 「お父様、ご挨拶はどちらへ?」  サンドリーヌが問いかけると、横にいたアランが応じた。 「アルトワ伯爵は神出鬼没で有名なのです。いつ、どこから、どのようにして現れるのかも余興の一つなんですよ」  アランは片目をつぶってみせた。サンドリーヌは何度目かの驚きに、返す言葉も見つからなかった。  ダンスはもちろん、辺りを眺めているだけでも楽しい舞踏会だった。音楽も気が利いていて、ダンスのリズムを取る邪魔はしないが、これまで聞いたことのないような独特のアレンジで人々の耳も楽しませている。  サンドリーヌはアランと踊ったあとも何人かの紳士とダンスを楽しんだ。心地よい疲労を抱えてようやく腰を下ろした時には、既に夜もふけた時刻になっていた。
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