王太子の開いた舞踏会

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「ミス・カンブルラン」  サンドリーヌはその声に振り向くと、この会場で誰よりも美しいエマの姿を目に留めた。  前回の黒い絹のドレスも素晴らしかったが、今夜の赤いシルクのドレスもエマの美しさを引き立てている。輝くような金色の髪はまとめられ、高価な宝石も彼女の笑顔を引き立てる以上の働きは見せられないほどだ。 「ミス・ヴァロワ。こんばんわ」  サンドリーヌが駆け寄ると、隣にいた紳士もサンドリーヌに声をかけた。 「ミス・カンブルラン、こんばんは」 「こんばんは」  サンドリーヌは見覚えのあるようなないような、得心がいかぬ表情を浮かべて応じた。 「ミス・ヴァロワ、ミス・カンブルラン、それでは失礼いたします」  紳士は軽く一礼して颯爽と去っていった。  近くにいたレディたちがあげる声が耳に入ってきた。 「素敵ね~、シャイン伯爵様」 「ベルタン侯爵も素敵ですけれど、シャイン伯爵様は別格の魅力がおありになるのよね」 「先日の舞踏会でもミス・ヴァロワと踊っていらしたでしょう、お二方のダンスは何度拝見してもうっとりいたしますわ」 「あれで何人ものご令嬢がシャイン伯爵様を諦めることになりましたものね」 「ミス・ヴァロワなら仕方がないですわ。あんなにお美しいのですもの」  自分たちの声が聞こえていないとでも思っているのか、本人がすぐ近くにいるにも関わらず会話を続けていた。
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