王太子の開いた舞踏会

6/13
前へ
/203ページ
次へ
「ミス・カンブルラン、楽しんでいらして?」  近くのレディたちの会話など耳に入っていないかのような態度で、エマはサンドリーヌに声をかけた。 「はい。こんな愉快な舞踏会は初めてです。と言ってもまだ二度目ですけれど」 「えぇ、私もですわ。楽しいですわね」 「あの、先程の紳士は、あのお噂のシャイン伯爵なのですか?」  サンドリーヌはおずおずとして聞いた。 「あら、ご存知でいらっしゃらなかったの? 先日ご訪問させていただいたときに伯爵もいらっしゃいましたけど」 「そうでしたかしら? お恥ずかしい」  サンドリーヌはエマの指摘でようやく思い出した。その時呆然としていてピエールに挨拶も返さずに失礼をして、顔を合わせていたことすら忘れてしまっていたことを。 「ふふふ。あなたって本当に面白い方ですね。もう一度お呼び致しましょうか?」 「いえ、結構です!」  サンドリーヌは慌てて顔も手も横に振って見せる。 「あの、先日伯爵様にぶつかってしまって、お恥ずかしいところをお見せしたばかりで、その、伯爵様がお忘れになられるまではお会い致しかねると……」 「あら。そうでしたの。ふふふ」  エマは目を丸くして見せたが、すぐに楽しげな笑顔になった。
/203ページ

最初のコメントを投稿しよう!

42人が本棚に入れています
本棚に追加