王太子の開いた舞踏会

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「ミス・ヴァロワは、シャイン伯爵とご結こ……」  サンドリーヌがそう言いかけたとき、突然サンドリーヌとエマの間に道化が飛び出してきた。  道化は手足を広げて右へ左へと滑稽な踊りをしている。  突然のことに驚いて声も出せない二人は、目を丸くして道化を見つめていた。  何か余興でも起きるのではと期待した客人たちが、次々に集まり始めた。  サンドリーヌたちを囲む形で何人もの人たちが円を作り始めると、道化は突然サンドリーヌの片手を取って胸の前ほどの高さに持ち上げた。まるでこれからダンスでも始めるような姿勢だった。  道化はサンドリーヌの手を引きながら広間の中央へと迷いなく進んでいく。道化とサンドリーヌが通りかかると、客人たちはダンスをやめて二人を目で追い始めた。  道化は中央までたどり着くと立ち止まり、客人たちが集まってくるのを静かに待っていた。  サンドリーヌは道化にされるがままの状態で、会場の誰よりも驚いた表情を浮かべていた。  曲が終わって静まり返った時、道化はその時を見計らっていたとでも言わんばかりにいきなりその衣装を剥いだ。 「紳士淑女の皆様ごきげんよう! 本日はわが舞踏会へようこそ!」  衣装の中にあったのか、マント状の衣装を剥ぎ取った瞬間にたくさんの花々が放射状に放たれた。花を雨のように降らせながら声を張り上げた人物は、既に道化ではなく紳士になっていた。
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