王太子の開いた舞踏会

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 紳士の声を聞き姿を見た客人たちは、歓声をあげた。 「アルトワ伯爵!」 「愉快な余興だ!」 「ルイ王太子殿下!」  口々に驚喜の声をあげている。  アルトワ伯爵はサンドリーヌの手を握ったまま、もう片方の手は自身の胸元に当ててそれらの歓声に応えていた。  サンドリーヌは道化の正体がアルトワ伯爵だったことに驚いて、目を見開いたまま身動きができずに静止していた。 「ほほほ! 可笑しいこと。あなた、先ほどお話しなさっていたようでしたけど、あのミス・カンブルランとは親しくしていらっしゃるの?」  リヴェット公爵夫人がエマに声をかけた。 「いえ、まだご挨拶程度ですが、とても面白い方ですのでこれからお近づきになりたいと思っているところです」 「そうでしょうね。アルトワ伯爵のお眼鏡にかなった娘かもしれないのですから、お近づきになっていた方がよろしくてよ」 「リヴェット公爵夫人、まさか……」 「あのように一人のご令嬢を引き立ててご挨拶をするようなお姿は、これまで一度も拝見したことがありません。とても珍しいわ。ほほほ」  リヴェット公爵夫人の言葉を受けて、エマは心配そうな目をサンドリーヌへ向けた。  注目の的となっているアルトワ伯爵は、サンドリーヌと握ったままの手を上に掲げると、サンドリーヌをくるりと反転させ、自身の胸元に引き寄せた。  それを合図に音楽が鳴り始め、アルトワ伯爵はそのままサンドリーヌとダンスを始めた。  しばらく二人を見守っていた客人たちは、一組ずつ順に二人に倣い、ダンスが再開された。
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