【プロローグ】早苗はサンドリーヌの夢を見た

2/2
前へ
/203ページ
次へ
 好奇心に駆られたサンドリーヌは、徐々に光が届かなくなる洞窟を手探りしながら進んだ。  行き止まりにまで来ると、そこには鮮やかなグリーンと乳白色の混じり合った、岩とも言えるほど大きな秘石が鎮座していた。  まるで人の手で磨かれたように滑らかな表面に誘われ、思わずその石に手を触れた。  サンドリーヌはその瞬間に、サンドリーヌとして生まれ育った16年間の記憶と共に、柏木早苗としても生きていた自分を思い出したのだ。  早苗としての記憶は朧気ながらで判然とはしないが、確かに自分は柏木早苗という女性で、高校時代に出会った彼氏と大学卒業後に結婚し、専業主婦ののちにパート職を始めたという微かな記憶が蘇ったのだ。  なぜこんなことになったのかは理解できないが、不思議なこととは言え受け入れる以外にない。  それからのサンドリーヌは、サンドリーヌとして変わらぬ日常を送りながらも、ふとした瞬間に早苗としての記憶も蘇る奇妙な日々を過ごすことになった。
/203ページ

最初のコメントを投稿しよう!

44人が本棚に入れています
本棚に追加