王太子の開いた舞踏会

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 次々と予想もしない出来事が立て続けに起きて驚きっぱなしのサンドリーヌは、笑顔を作ることも忘れてピエールを呆然と見つめ返していた。 「ミス・カンブルラン、初めてお会いした時には、まさかこのように踊っていただけるとは思いませんでした」  ピエールは冗談めかした口調で言った。  その言葉でピエールにぶつかったときのことを思い出してサンドリーヌは赤面したが、恥をかかされてばかりでは面白くないと思い直して言い返すことにした。 「どんな衝撃にも石像のように動かない方だとお見受けしておりましたが、こんなにも優美にダンスを踊られるとは存じ上げませんでした」 「髪に草花をつけていらしたお転婆なご令嬢が、まさか社交界デビューをしていらっしゃるレディだとは思い至りませんでした」 「まだデビューしたてですので、半身だけレディで、まだ半身は娘のままですから」  サンドリーヌの表現にピエールは吹き出した。 「ミス・ヴァロワのおっしゃる通り、面白い方ですね」 「伯爵こそお噂の通りレディにお優しい方でいらっしゃいますのね。ですが、私をダンスにお誘いいただいたところで何にもなりません。この国で唯一、伯爵のご尊顔を知らなかった恥知らずの娘ですから」 「3年も外遊していて帰国したばかりです。私を知らない方は大勢いらっしゃいますよ」
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