王太子の開いた舞踏会

12/13
前へ
/203ページ
次へ
「カミーユのようなことをおっしゃられるのですね。こんな私でもどなたかに見初められれば、それをお受けしない理由はありません」  サンドリーヌは売り言葉を買って言った。 「それが殿下でもお受けになられますか?」 「……殿下? あっ、アルトワ伯爵ですか? そんなまさか」  サンドリーヌは大笑いした。 「先程の余興には驚きました。アルトワ伯爵の舞踏会は初めてですけれど、あのようにして皆を楽しませるお優しいお方でいらっしゃるのですね。とても愉快でした」  ピエールはアルトワ伯爵の幼馴染みであり仲の良い友人であったため、公の場でのあのような振る舞いは今までにないことだと知ってはいたが、それをサンドリーヌに伝えることはなぜだか躊躇(ため)われた。 「シャイン伯爵は、アルトワ伯爵のご友人でいらっしゃるのですか?」 「えぇ」 「そんなことも知らない無知な娘でお恥ずかしいことですけれど、雲の上の方々のことは下級貴族の娘には聞こえてこないものですから」  サンドリーヌは時折皮肉にも聞こえる事実をあっけらかんと口にしてしまう癖があったが、愛嬌があって素直なサンドリーヌの口から出るそれらは、相手にも皮肉な言葉として聞こえていないため、誰もその癖を指摘できないのであった。
/203ページ

最初のコメントを投稿しよう!

43人が本棚に入れています
本棚に追加