エマとアランの密談

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エマとアランの密談

 エマとアランはダンスを終えると、シャンパンを手に取って並んで腰を下ろした。  ダンスの間は二人とも他のカップルに意識を向けていて、揃って心ここにあらずの状態だった。  互いにそのことを自覚し、相手の視線の先に他の人物がいることにも気がついていた。   「ミス・カンブルランは素敵な方でいらっしゃいますね」  エマが先に口を開いた。 「え、えぇ」  まさにそのミス・カンブルランを目で追っていたアランは、内心を見透かされたように感じて一瞬怯んだ。 「一夜の間にシャイン伯爵とアルトワ伯爵のお二方からダンスに誘われる栄誉を授かったのは、彼女が初めてではないかしら」 「……そうかも知れませんが、それが何か特別なことだとおっしゃるのですか?」 「あら、ご存知でいらっしゃるのにはぐらかされるのですね。シャイン伯爵が舞踏会へ来ることだけでも珍しいことですが、ましてやダンスなど、ほとんどなされない方でいらっしゃるのはご存知でしょう? アルトワ伯爵はたくさんダンスをなさいますけれど、そのお相手のほとんどがご夫人の方ではありませんか。未婚のご令嬢にお声をかけられるなんてことは、久しくなかったことではないでしょうか」 「そうおっしゃるあなたはピエールにとって特別な方だということでしょうか? あなたはそんなピエールと何度も踊っていらっしゃる。それにアルトワ伯爵はそろそろご結婚についてお考えになられる時期でありますから、そのお相手を探さなければなりません。これからはご令嬢とダンスをしたところで、それが珍しいことだとは申し上げられないのではありませんか」
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