エマとアランの密談

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「あら、私とシャイン伯爵が何度も踊っていることをご存知でいらしたの? 私はてっきり、ベルタン侯爵の目には一人のレディしか入らないのだと思っておりました」  なぜこの(ひと)とこんな皮肉の応酬をしなければならないのかと思いながらも、アランは笑顔を崩さずに答えた。 「一度に目に入るレディはお一方(ひとかた)だけですよ。今はミス・ヴァロワだけが僕の視界を占領しております」 「ふふふ。妙なことを言いなさるのね。私に甘言なんて必要ありません。あなたがミス・カンブルランをお気にかけていらっしゃることは、あなたを見ればどなたでもすぐにお気づきになられることでしょう。ご注意なさった方がよろしいですわ。親友と殿下のお気に入りのご令嬢にお手をかけようとしていなさるなんて、噂に上ったら面倒なことになりますから」  エマは見目麗(みめうるわ)しいレディでありながらも、アランにとっては不思議と異性として意識しない相手だった。互いに別の人を想っていると暗黙のうちに理解し合ったからかもしれないが、初めて言葉を交わした相手だというのに気楽な態度で接することができた。 「あなたこそ、最初に好意を惹きつけたピエールが別のレディとダンスをしている姿をご覧になるのは面白くないことでしょう。ミス・カンブルランに取られないようにご注意なさった方がよろしいのではありませんか?」
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