友人同士の酒の席

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友人同士の酒の席

「おぉ、ピエール! ようやく来たか! 遅かったぞ」  アルトワ伯爵がドア(ぐち)に現れたピエールに手招きをして言った。 「申し訳ありません」  ピエールはアルトワ伯爵の側まで来ると、片膝をついて頭を下げた。 「やめろ、そんなこと! ここに座れ」  アルトワ伯爵は陽気な笑みを向けながら、ソファに座る自分の隣を叩いて言った。  ピエールは無言で頷き、命じられたままに腰を下ろした。  ピエールが座ったが早いか、アルトワ伯爵はピエールの肩を抱いて小声で話しかけた。 「あの娘は誰だ?」  抽象的過ぎる質問だったが、ピエールは誰のことを言っているのかすぐに判った。 「カンブルラン子爵のお嬢様です。ミス・サンドリーヌ・カンブルラン」 「子爵か!」  アルトワ伯爵は喜々として叫んだ。 「それはいい。お前はあの娘をどう思う?」 「特にご意見できることはありません。お会いしてまだ日が浅いものですから」  ピエールは無表情のまま答えた。 「ふーん。ま、飲めよ」  アルトワ伯爵はピエールのグラスにワインを注いだ。 「いただきます」  ピエールはグラスを軽く持ち上げて一口飲んだ。  アルトワ伯爵はピエールに回していた腕を離し、ソファの背もたれに両手を乗せた。 「俺もそろそろ相手を見つけなければならない。官吏連中がうるさいからな。とりあえずその子爵の娘を相手に選んだことにしてみてはどうだろうか」  ピエールはアルトワ伯爵の言い回しに違和感を感じて、伯爵の方へ顔を向けた。  アルトワ伯爵はピエールの視線を受け止めて話を続ける。
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