アルトワ伯爵からの招待状

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アルトワ伯爵からの招待状

 ついに社交界デビューを果たしたサンドリーヌは、一人前のレディに一歩近づいたとして有頂天になっていた。家庭教師のカミーユは、散々聞いて耳にタコができた話を飽きもせず繰り返すサンドリーヌに辟易していた。 「ですからね、私がベルタン侯爵と踊っていたときに、ミス・ヴァロワとシャイン伯爵のそれはそれは美しいダンスを間近で拝見してね、うっとりとしているとミス・ヴァロワが私の方に気づいてくださってね、ダンスが終わった後にお声をかけてくださいましたの。……聞いているの? カミーユ!」 「聞いておりますが、もう何度も同じことをお聞きしておりますし、それよりもこちらの勉強の方を……」 「もうできてるわよ」  サンドリーヌはカミーユに出された問いの答えをすらすらと解説し、驚いて口をぽかんと開けているカミーユに不敵な笑みを見せた。 「それならそうと早く言ってくださればよかったのに!」  延々とサンドリーヌの無駄話に付き合わされたカミーユが憤怒を抑えきれずにそう言うと、サンドリーヌは立ち上がって逃げ出した。 「言ってしまったら別の問題を出されてしまうではないの。ではごきげんよう!」 「サンドリーヌ様!」  カミーユの怒号が耳に届く前には既に、サンドリーヌは掃き出し窓から外へ出て庭へ向かっていた。
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