友人同士の酒の席

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「その娘と結婚することになっても構わないが、目的はそれではない。結婚するまでの時間を引き伸ばすことだ。子爵の娘だと聞けば王も大臣連中も慌てるだろう? 未来の王妃としては父親の爵位が不十分だからな。連中は諦めさせようとして説得にかかり、他の候補を探し始めるだろう。それを突っぱね続けていれば結婚の日は遠ざかっていくということだ」 「子爵の娘なら他にもいるだろう」  ピエールは思わず昔のように砕けた言い方をした。  アルトワ伯爵はピエールの口調の変化に構わず、むしろ友人として接してくれて嬉しいと言わんばかりに口角を上げ、視線を前へ移して言葉を続けた。 「そりゃいるだろう。男爵の娘でも構わないわけだからごまんといるさ。だがあの娘を選んだ理由は他にもある。俺に歯向かったり面倒事を起こさない、従順そうで大人しい娘に見えたからだ。王太子に見初められて得意になるような自信満々のご令嬢は御免被りたいからな」 「そういう娘も大勢いるだろう」  ピエールの二度目の反論に少し驚いたアルトワ伯爵は、ピエールの表情を見ようと視線を戻した。 「お前はあの娘と親しいのか? なんなんだ、さっきから」 「いや別に。なぜミス・カンブルランなのだろうかと。まだ社交界デビューしたばかりの幼い娘なのに」 「デビューしたばかりだろうが幼かろうが16なら適齢期だ。別に構わんだろう。親なんて泣いて喜ぶことだぞ」 「親が泣こうが、本人が別の意味で泣いたらどうするんだ」 「なんだその言い方。俺と結婚するなんて国一番の幸福者ではないか」 「そうかな」  陽気に話すアルトワ伯爵に対して、ピエールの視線は鋭いままで笑顔も見せない。
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