友人同士の酒の席

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「お前なんなんだよ! さっきから怖い顔して不気味だぞ。面白くないんだな。やめよう、こんな話! こんな話をするために呼んだわけではない」  アルトワ伯爵は張り詰めた空気を変えようとして声を上げ、ボトルを掲げて使用人にお代わりを催促した。 「隣国で会ってから一年は経っているからな。その時も顔を合わせただけでろくに話もできなかった。外遊中の話を聞かせてもらおうか」  アルトワ伯爵はウキウキとしてピエールに期待の目を向けた。 「他国の話なんてお前には耳にタコだろう。今更話したところで面白くもない話だ」  ピエールは話題が切り替わったことで表情を和らげて言った。 「お前の目で見たものを聞きたいんだ。他の奴らからの情報なんてカスも同然だ。お前の意見だから意味がある」  アルトワ伯爵は急に真面目な表情に切り替えてそう言った。  暗にピエールのことを誰よりも信頼していると告げているのだ。  アルトワ伯爵の本意をすぐに読み取ったピエールは、相好を崩してすぐに話題を継いだ。  ピエールは外遊の報告をしながら、アルトワ伯爵の真意について思いを巡らせていた。  ミス・カンブルランに対しては、レディとしては珍しくも愉快なご令嬢だという印象しか持っていなかったが、まさかそんな娘をルイ王太子殿下が結婚相手として見初めるとは、考えてもみなかった。
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