友人同士の酒の席

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 19歳から外遊に出ていたピエールは、それまでのアルトワ伯爵の性格や交友関係については熟知していたものの、今日までの3年間については全く知らない状態だった。  3年前の彼であれば、あんな従順で(うぶ)な娘を選ぶはずがない。アルトワ伯爵の好みは一回りは上の既婚者で、大人のレディでないと気がすまない(たち)だったはずだ。  結婚の時期を遅らせたいという気持ちはわかる。夫人たちとの火遊びや、夜な夜な友人たちとするバカ騒ぎを愛しているアルトワ伯爵ならば、そう考えてもおかしくはない。  結婚生活に煩わされることを忌避して、文句も言わぬような従順な娘を選んだとでも言うのか。わざわざそんな相手を選ばなくても、王太子なのだから堂々としていればいいものを。  意外と臆病な面でもあるのだろうか。  ピエールはそこまで考えると、信頼した友人には心を開いて真摯に接する男、高貴な身分ながらも友情の篤い、目の前にいる友を見て思わずニヤリと口の端をあげた。 「なんだ?」  ピエールの表情を見たアルトワ伯爵はポカンと間の抜けた表情を見せた。 「なんでもないんだ。すまない」  ピエールは下げられぬ口角を隠そうとして、握った片手で口元を抑えながら答えた。
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