友人同士の酒の席

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「お前がシャイン伯爵じゃなかったらいいのにな。いや、シャイン伯爵だからいいんだけどさ」 「何を言っているんだ?」  ピエールは友の不可解な言動に堪らず吹き出した。 「優秀過ぎるんだよ。お前が将来の宰相になってくれるのはありがたいし嬉しいことなんだが、お前以上の者がいないからお前がやらなきゃならないことが多すぎるだろ? 遊んだり騒いだりできなくなるじゃないか」  ピエールはとうとう大声を出して笑った。 「ありがとう。それは褒めているんだよな?」  ピエールはなんとか言葉を返したが、おかしくてまだ笑い続けている。 「いや、まあ、うん、ピエールはそのままでいい」  アルトワ伯爵は笑い転げる友人を見て、自分のせいでこんなにも笑っているのかと思うと気恥ずかしくなった。 「遊び仲間なんかお前にはたくさんいるだろう?」  ようやく笑いが収まってきたピエールが目の端を拭いながら言った。 「うん、まあ、いることはいる。あ、そうだ、お前ベルタン侯爵のことは知っているか?」 「アランのことか?」  まだ口元はほころんだままのピエールが返す。 「そう、アラン・ベルタン」 「奴がどうした? あいつは自分の領地が大好きだから、わざわざそこを出てまでする国政なんかに興味はないと思うぞ」 「そうか。いや……。そうか」  言葉を濁したアルトワ伯爵に不思議そうな目を向けたピエールだが、言葉を続けそうにない様子を見て、再び外遊の話を再開した。
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