桟敷への招待

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桟敷への招待

 今夜のオペラは長らく休演していたイタリアのオペラ歌手が復帰する日ということで、街中の貴族たちを惹き付け、会場はいつも以上の賑いをみせていた。  アルトワ伯爵は桟敷を二つ持っていて、自分用と招いた客用とで使い分けていた。  特別な日である今夜は、桟敷に誰が招待されるのであろうと、今夜の歌劇と同じくらいに貴族たちの注目を集めていた。 「凄いですね!」  着飾ったサンドリーヌがアランに付き添われて桟敷へ到着した。 「足元にお気をつけください」  サンドリーヌの手を引いていたアランは、敷居に気づかせるようにして引いている手を上にあげた。 「あ、転ぶところでした。ありがとうございます」  アランはサンドリーヌの返答を受けてにっこりと笑いかけ、前方の席へ誘導した。 「桟敷って案外豆粒くらいにしか見えないところなのですね」 「ははは! ですから、こういったものを皆さん持参してこられるのです」  アランはそう言うとオペラグラスを取り出してサンドリーヌに手渡した。 「あ、本当ですね。皆さん持っていらっしゃる」  サンドリーヌは早速覗き込むと、物珍しそうにあたりを見回した。すると、見れば見るほどこちらを向いている人ばかりと目が合って、戸惑ったサンドリーヌは、それ以上は続けることができずオペラグラスを膝の上に下ろした。 「こんばんは、ミス・サンドリーヌ、ベルタン侯爵」
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