桟敷への招待

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 その声に振り向いたサンドリーヌは、目にも麗しいエマのドレス姿をその目に捉えた。 「こんばんは、ミス・ヴァロワ」 「こんばんは、ミス・ヴァロワ、シャイン伯爵」  サンドリーヌとアランは揃って声を出した。  アランの言葉で気がついたサンドリーヌは慌てて付け足した。 「シャイン伯爵……」  エマをエスコートしていたのはピエールだった。鮮やかなブルーのフロックコートが美しい彼の端正な顔つきをさらに引き立てている。 「ごきげんよう、ミス・カンブルラン、ベルタン侯爵」  ピエールは片方だけ口の端を上げてサンドリーヌに応えた。 「ピエールもアルトワ伯爵に招待されたのか」  ピエールはアランの問いに片眉を上げて応える。 「ミス・ヴァロワをお連れしろとのご命令でね。それでなくてはこんなところに用はない」 「ははは。そうだよな。お前がオペラを見に来るなんて珍しい」 「珍しいもなにもここへ来たのは初めてだ。外遊中に鑑賞したことはあるが」 「ミス・カンブルランにお会いできて嬉しく思いますわ」  エマが極上の笑みをたたえてサンドリーヌに声をかけた。 「あの、私も嬉しいです。初めての観劇で興奮しておりましたのに、ミス・ヴァロワにもお会いすることができるとは、さらに嬉しいです」  サンドリーヌは場所と面子に気圧されて、おずおずとしながら応えた。 「今日の演目は楽しみでございますわね」  エマは緊張しているサンドリーヌを元気づけるような口調で話題を変えた。 「はい。読書ばかりで音楽には疎いものですから今日はとても楽しみです」 「以前もそうおっしゃられていましたね。いつかおすすめのものがあれば教えてくださらない? 私のピアノも聞いていただきたいわ」  エマは声を弾ませて言った。 「ありがとうございます」  エマの楽しげな様子につられて、サンドリーヌは元気が出てきた。
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