桟敷への招待

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「一体何なんだ?」  人気(ひとけ)のない廊下の隅で腕を組んで立っていたピエールにアルトワ伯爵が近寄ると、早速ピエールが口を開いた。 「声が大きいぞピエール」  側にいるピエールの耳にも届かないほどの声量でアルトワ伯爵はたしなめた。 「何をしたいんだ?」  ピエールは片眉を吊り上げてアルトワ伯爵を見据えた。 「この後ささやかな夕食会を開くつもりだ。たまたま思いついたようにな。それで、招待する面々もその場にいる紳士淑女に声をかけることにするわけだ」  アルトワ伯爵はそう言うとピエールを伺うようにして見た。ピエールが視線で先を促していることがわかると、アルトワ伯爵は先を続けた。 「ベルタン侯爵に来てもらいたいんだ。来てもらえるだろうか」  そこでミス・カンブルランの名前が出ると予想していたピエールは意表を突かれて言葉に詰まった。 「どう思う?」 「そんなことをせずとも、普通に招待をすればいいのでは?」 「晩餐会を開いて招待するなんて面白くもなんともない。それでは特別な感じがしないではないか。ここで意気投合して夕食会でも開こうかという流れなら、特別な印象を与えられるだろう?」  ピエールは伯爵のその意図が読めず訝しんだ。
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